ロバート・パーカー 7つの大罪というBDを読んだ。 Robert Parker Les sept Péchés capiteux
(BDはマンガではない。大きなアルバム本でコマの進みはマンガみたいだけど、全色カラーでまたマンガとも表現法が少し違う。またこのあたりの漫画の日仏比較は後ほど書きたいと思います)
この本を買う人は多くが「ロバート・パーカー?あのワインに点数つける人?自分の好きなワインだけに高得点つけて、市場操作して喜んでるんでしょ」程度のものだと思う。(私もその一人)。
ロバート・パーカーを知らない人に少しだけ説明すると、もともと彼はアメリカ人の法律の専門家で法律事務所に勤務。(弁護士さんではないっぽい)フィアンセだった今の奥さんパトリシアが仏語専攻で彼女の留学先のパリへ遊びに行ったのがワインとの出会い。コーラしか飲んだことのない男が人生初めて味わったボルドーワインの感動覚醒めやらず、帰国後、東海岸のThe Baltimore-Washington Wine Advocateという地方で『オレ様ワイン批評誌』?みたいのを作っていたんだけど、The Wind Advocateに改名。もちろんその頃から実はワイン小売業者や消費者に購読されていたのですが、かなり小規模。でも当時のパッションはかなりのもので、自分で勝手に刷っていろいろなところに配布や購読をしらもらっていたらしい。そんな彼を知った1980年代に彼を使ってなにかできないかと企んでいた(?)ボルドーの連中(ワイン醸造家・オーナー・商売人)が、この愚朴なアメリカ人だった彼と手を組み、いろいろと情報操作や価格操作をしたと言われている、限りなく黒に近いワイン批評家なのです。
まだ翻訳も出てないですがネタをばらすと、パーカーが70歳の誕生日を迎える前にボルドーから手紙が届きます。「親愛なるそして尊敬する友よ、私たちサンテミリオンの仲間が君の誕生日を祝わせてくれないか Michel Rolland, Jaffrey Daves,J-L Thuneivin, Alain Raymond…より」という内容。そして一週間後パーカーは喜び勇んでボルドーに到着するわけですが、空港で彼は拉致されサンテミリオンのどこかの地下へ連れて行かれ覆面の裁判官の前で7つの大罪について、罪の説明を受け審判を受けるというもの。
一つ一つの罪にひとりひとりのボルドーの有名人が出てきて「あの年のこの点数の付け方はやっぱりこういうことなのか!」という解説も出てきますが、ひとつひとつは正直あまり興味ないんで覚えてないんですけど、このBDを読んで私、逆にパーカーのことが分かってパーカーの素直なワインオタぶりにちょっと好感さえ持てました。
彼はお仲間のワイン業者やコンサルタントが作るワインに高得点を与えて彼らを喜ばせてあげたのは確か。でも結局、パーカーの点が神の一声になり、ワインの価格に影響するというのも確か。でもそれって、パーカーのせいじゃないといえばせいじゃない。要するに消費者があまりにも判断できない商材であるが故にそういうパーカーの点数で購買の有無が決定されるという結果、「その点数表を作ったおまえが悪い」というのはちょっとかわいそう。
美人コンテストみたいな趣向品でもあるワインに対して「俺の好みは浅黒い手足の長い女」と言い切ったパーカーに「買える女ってどこにいるの?」って多くの無知な人がついていっただけ現象で、消費者は自ら彼がこうやって美女辞典を見てるだけで結構幸せだったんじゃないかしらとさえ思えてくるわけ。
それをフランス人は「コカコーラで育ったアメリカの田舎ものが何が分かる?」と言うんだけど、それって本末転倒の逆ギレ。フランスのワイン関係者はは判を押したように「俺たちしか本物はいないよ」みたいな事しか口から出ない。そりゃ、カリフォルニア産の日本酒を認めたくないのと同じなんでしょうけど、ワイン作りってのはメソポタミアの時代から地中海、イタリア・フランスにあがってきたんだから、決してワインがフランスだけのものじゃないし。言わせてみれば、ワインなぞなにもキリスト教の特権でも何でもない。(もちろんフランスが法律や環境は歴史的に洗練されてるのは認める。)
でも結局この30年の間、パーカーと同格それ以上の世界的有名なワイン批評家もワインの宣伝マンをフランスは育ててこなかった。それも大罪だわよ。世界的批評家はほとんど英国人が英語で発信する。ここにマイナー言語の悲しさがあるんだけど。でもそれは、フランス語でないから故にヨーロッパ人も日本人も同じ土俵で見えるという、実はありがたい事象。本来、普通のフランス人はほとんどワインの知識もないし、フランスの地理にさえ疎い。親戚がいなければブルゴーニュの村だって何も知らない人が多いんじゃないかしらん。
ま、色々と考えさせられたわ。何回も言うけど、でも初期の頃のパーカーさんの情熱ってのはほんとうに尊敬に値する。法律事務所に勤めながら『オレ様ワイン批評誌』を出してた頃なんて楽しかっただろうなと思う。あのメロル・ストリープの映画「ジュリーとジュリア」のジュリーの熱心なブログ時代を彷彿させたのでした。
そういう意味で、うーん。人生は情熱やね。フランス人でもアメリカ人でもない私がいうんだから。間違いないでしょ。でも去年からボルドー輸出量は中国が一位らしく時代の流れも感じる。だってこのBDの中では香港も日本も中国も同じ。当事者だから言うのではないけど、日本と中国はビジネスの仕方もかなり違うと思う。でもこの作者はまだそこまで達してないよう。ま、どうでもいいんですけど。
ワイン・・この秘めたる魔物。ほんま。何年たってもわかりませんわ。。。。