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農林水産省×地球の歩き方『おいしい日本の届け方』──パリから見た、日本食輸出の「今」と「使えるポイント」

パリ在住の輸出コンサルタントとして、日本の食品・農林水産物の海外販路開拓に日々関わっております。

先日、農林水産省と地球の歩き方がコラボレーションして制作したハンドブック『おいしい日本の届け方(UMAI / Tasty eats from Japan to the world)』2025年版をダウンロードしました。

「これ、輸出に興味ある事業者さんにとって本当に使えるな」と思ったので、パリという現場にいるコンサルタント目線でポイントを整理してご紹介します。

そもそもこの資料、何者?

農林水産省が運営するGFP(Global Farmers/Fishermen/Foresters/Food Manufacturers Project)と、「おいしい日本、届け隊」という官民共創プロジェクトが連携して制作した、日本食・農林水産物の輸出を始めたい方・支援したい方向けの実践的ガイドブックです。

「地球の歩き方」との共同制作という点が面白くて、世界各地の現地取材情報と、輸出実務の解説が一体になっているのが特徴。難しい輸出の話を「旅のガイド」感覚で読めるよう工夫されています。バックパッカー的には懐かしい、、あの本の耳がブルーですね。

現状をまず把握する:世界の日本食市場は今どこにある?

資料の冒頭に「日本食レストラン数から見る世界地図」があります。これが輸出先を考える際の最初の基礎情報になります。

2023年時点のデータで特筆すべきは:

中国が日本食レストラン数で世界トップ(78,760店)にのぼること。ただし、現在は規制問題(放射性物質検査等)が輸出のハードルとなっており、「規制解除が待たれる魅力的な巨大市場」と位置づけられています。

アメリカは世界最大の食品市場。健康志向の高まりに加え、アニメ・漫画など日本文化人気も購買を後押しし、日本食レストランのニーズが高まり続けています。

フランス(EU)はヨーロッパ最多の日本食レストラン数(4,680店)を誇ります。ここはパリ在住者として感じることですが、まさに今「一流品のお墨付き」が得られる市場という位置づけは正しい。フランスで評価されると他のEU諸国への普及にもつながりやすい。

香港は「ほぼゼロ関税」のフリーポート。日本からの食品輸出額は世界2位(人口一人当たりでは世界1位)。インバウンドで日本を旅行した香港市民が帰国後に日本食品を求めるという「体験→購買」の循環が非常に機能しています。

UAE(ドバイ)は高級日本食レストランが急増中で、和牛、居酒屋カルチャーなど多様な形で日本食が浸透しています。→最近ちょっと火の粉が・・・

本書の肝:輸出を「やってよかった」7つの理由

輸出に二の足を踏む事業者さんに対して、本書は「輸出を始める理由」を7つ挙げています。私がコンサルタントとしてよくお伝えすることと重なるので、少し解説を加えながら紹介します。

① 新たなビジネス機会・売上拡大 国内市場が縮小・成熟化するなか、海外市場には大きな成長余地がある。円安局面は輸出側に有利な環境でもあります。

② 健康志向で新市場を開拓 「低カロリー・高栄養価」という日本食のイメージは世界で強い。このポジショニングは本当に強力で、フランスでも機能しています。

③ 収益源の多様化・リスク分散 複数の国・地域でビジネスを展開することで経済的リスクが分散できる。一国に依存しない構造は中長期的に安定します。

④ ブランド力の国際化 海外市場での実績は、国内でのPRにもなる。「○○国に輸出している」という事実は国内での信頼性向上にもつながります。

⑤ 生産現場への好影響 輸出による稼ぐ力の強化は、国内の生産現場への投資・モチベーションにもつながる。

⑥ 既存事業の新たな視点・活性化 海外市場のニーズに応えようとすることで、国内向け事業の再構築や新戦略構築につながる。

⑦ グローバル人材の参画・地域経済の活性化 海外展開は異文化対応力のある人材を呼び込む。後継者問題の解決にもつながる視点が面白い。

実践編:輸出戦略のステップを整理する

本書の特集3〜5にかけて、輸出の全体プロセスが詳しく解説されています。私がコンサルとして「ここが一番大事」と思うポイントを抜き出します。

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ステップ①:輸出形態を決める(直接貿易 vs 間接貿易)

国内の商社を通す「間接貿易」か、自社が直接海外取引先と取引する「直接貿易」か。リスクと手間のトレードオフです。最初は間接貿易で経験を積み、販路が安定してから直接貿易に移行するケースが多い。

ステップ②:海外市場のリサーチ

「現地顧客・競合・流通」の3点セットを調べること。自社商品の強みが発揮できる市場かどうかを見極めることが最重要です。

ステップ③:ブランディング

本書では「ブランドストーリーを作る」「体験価値を作る」「価格戦略を考える」の3つを軸に解説しています。私が現場でいつも感じるのは、ここを飛ばして安売りに走る事業者が非常に多いということ。「なぜ日本の銘品は安売りされるのか?」という問いと直結する部分です。

ステップ④:プロモーション

多言語対応サイト、SNSプロモーション、展示会への参加、越境EC、現地での営業活動の5つが紹介されています。特にB to B向けは展示会と現地営業が今でも重要です。ケルンのAnuga(アヌーガ)やパリのSIALがその典型。多くの傾向として、ここから始める方がいらっしゃいますが、これは間違いです。1から3をちゃんとしないとここから始めてもなにもはじまりません。

ステップ⑤:規制・検疫への対応

輸出先国の規制をクリアしなければ輸出できない。これは避けられない。残留農薬基準、食品添加物規制、ラベル表示規制など国・地域によって異なります。ここを事前に調査せず動いてトラブルになるケースは非常に多いです。

モデルケースが秀逸:3社の実践事例から学ぶ

本書には実際に輸出に成功した3社のモデルケースが詳しく紹介されています。

大石茶園(加工品:茶 / 福岡県八女市) 現在38ヵ国以上に輸出。成功の鍵は「残留農薬基準への徹底対応」「国際認証(FSSC22000・有機JAS)の取得」「SNSでの多言語営業」の3点。パウダー加工で海外市場の料理・菓子・飲料需要を取り込んだのも戦略的です。

株式会社山神(水産物:ホタテ / 青森県) アメリカから始め、EUへの輸出施設認定を粘り強く取得。フランスで評価されることで欧州全域への普及を狙う戦略は、まさにパリ在住者としても「正解」だと思います。EU規制対応は時間と労力がかかりますが、通過できれば参入障壁が競合にとっても高い。

飛騨ミート農業協同組合連合会(畜産物:牛肉) 香港・台湾・アメリカ・EU・オーストラリアへ7億7,000万円規模で輸出。地域ブランドの力を国際展開した事例です。

パリにいるコンサルタントとして一言

この資料を読んで思うのは、「情報は整っている。あとは動くかどうか」ということです。

農林水産省のGFPや、JETROの輸出支援プラットフォーム、JFOODO(日本食品海外プロモーションセンター)など、使える支援機関・ツールは年々充実しています。

ただし本書にも正直に書かれているように、「本気で海外輸出をするには、時間と予算、労力をかけ続ける決意が必要」です。短期で成果を求めると必ず躓きます。

私が現場でいつもお伝えしているのは「まず一国、まず一品目から始めて、学びながら広げていく」こと。この資料はその「最初の一歩」を踏み出すための地図として、非常によくできています。

ご関心のある方はGFPのサイトに無料で公開されていますので、ぜひ手元に置いておくことをおすすめします。

在パリ・海外販路コンサルタント / 中小機構海外アドバイザー フランス・欧州向けの販路開拓、輸出戦略立案のご相談はお気軽にどうぞ。

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