エピスリーフィンとは – パリから見える日本食材の未来
エピスリーフィンが拡大するフランス
若い人にはもう、Fauchonって何?かもしれませんが、前世紀のパリを知ってる人からすれば、高級食材といえば、ほーしょん。。Faushon。今でも、フランス語のときには「フォーションで買ってきたの?」とか冗談では使うのですよ。そしてパリに暮らしていると、ここ数年で「エピスリー・フィン(épicerie fine)」が確実に増えているのを実感するのですよ。。え?何それ?ってエピスリーフィンとは、簡単に言えば、高級食材店のことね。
フランス全土では現在、9,800軒以上のエピスリーフィンが存在し、2019年から2024年にかけて約85%も増加しました。市場規模は84億ユーロ(約1兆3,000億円)に達し、2026年には90億ユーロ超になると予測されています。

その背景には消費行動の変化があります。かつては「特別な食事=レストラン」という感覚が主流でしたが、コロナ以降は“外食よりも家で上質な食材を楽しむ”流れが強まりました。内食や中食への変化です。レストランの代わりに、「今日は特別だからエピスリーで良いチーズやワインを買おう」という選択肢が一般的になったのです。
(もちろん今のインフレを考えるとそう簡単ではありませんが)

パリを代表するエピスリーフィン
現在のパリで注目されるエピスリーフィンを挙げるなら、この3つでしょう。
これらは単なる“食材店”ではなく、使い古された言葉ですが・・・ライフスタイルを提案する場としてセレクトされた食材を買うこと自体が体験であり、説明を受けることがほぼ体験なのね。そして贈答品としても高い価値を持っており、今までのワインと花とチョコだけの選択を大きくしています。
かつての「老舗」から今へ
一方で、パリのエピスリーの歴史を振り返ると興味深い変化もあります。
マドレーヌ広場にはかつて、世界的に有名な高級エピスリーが並んでいました。私がパリに関係を持ち出した1980年代頃ってここに行ってカーブを見て、コンフィチューデュレを買ってお土産にするのが流行ってたのよ。。懐かしいわ。高島屋でもあったけどね。
- Fauchon(フォション)
- Hédiard(エディアール)
贈答品や観光客向けの象徴的存在で、華やかなパッケージがパリの美食文化を体現していましたが、経営難や消費スタイルの変化により、今ではその場所から姿を消しました。ロシア資本になったりしたのかな。フォションはホテル業やティーサロンに軸足を移し、エディアールはブランドの存在感いまはほぼ。。どこいったのかしら?古い時代のパリ好きの淑女紳士はみんなこの店に行ったものよ。いまや影も形もないからね!みんなマドレーヌ広場がグルメ広場だったなんていうと古いなぁ。と思われちゃうから。いまはMaillotのマスタード屋さんかキャビア屋さんぐらいしかないわ。。
つまり、かつての「老舗・観光型」から、今は「小規模・個性派・ライフスタイル提案型」へと進化しているのがエピスリーフィンの現在地かもしれません。
日本には「エピスリー・フィン」という言葉は定着していませんが、それに近い存在はありますよね。
- Dean & Deluca(ディーン&デルーカ)とか紀ノ国屋(KINOKUNIYA)、成城石井、いかりスーパー とか
小売のスーパー的な存在 - デパ地下(百貨店食品売場)
世界的にも珍しい、日本独自の巨大で洗練された「エピスリーの集合体」。実はパリのギャラリー・ラファイエット食品館は、この日本式デパ地下に近いスタイル。多分にほんのDepachikaはほぼそのままコンセプトを影響を受けたのはまちがいありませんね。これが各デパートにあるだなんてやはりすごい。インバウンドでもよく混んでいるのでしょう。

エピスリーフィンはコロナ後の新トレンド
もう一つ大きな特徴は緩いギフト文化。フランス人って日本人と比べると基本的にあまりギフトはしないのですが、誕生日やちょっとしたお礼に「花+ワイン」「チョコレート」が鉄板なんですが、近年はエピスリーのギフトバスケットが人気を集めています。
高級ジャムや蜂蜜、スパイス、クラフトチョコレート、紅茶やオリーブオイルを組み合わせた小さな詰め合わせは、「センスの良い贈り物」として受け取る側がやっぱり普段食べないと嬉しい、しかもそのオリーブオイルが地元だったりすると話も盛り上がるし。レストランで食事を奢るよりも、家庭で楽しんでもらう方が送る方ももらう方もなんか嬉しいですよね。ま、もちろん独身貴族にはレストランですが、相手がカップルならついつい紅茶とか渡してしまいがちです。
最近は路面店だけではなくオンライン専門店も多く、多くの路面店でさえもオンラインの売上に頼っているという情報もあります。






パリのエピスリーフィンと親和性のある日本食材
そして実際に考えてみると、日本の食材はフランスのエピスリー・フィンに非常に親和性があります。
- 発酵調味料(味噌・醤油・麹)
フランスの「Nostalgie gustative(味覚のノスタルジー)」に響く存在。シンプルで原点回帰的な調味料として、日常使いに取り入れやすい。 - 日本酒・焼酎・梅酒
「Spiritueux de haute volée(ハイエンド・スピリッツ)」や「Expérience non-alcoolisée(ノンアル体験)」の両方に繋がる。高級スピリッツとしての位置づけも、ノンアル清酒の革新的提案も可能。 - 抹茶・柚子・和柑橘
「Plaisirs pas coupables(罪悪感のない楽しみ)」に直結。砂糖や脂肪を控えた菓子や飲料に、風味と彩りを加える存在として非常に相性がよい。 - 椎茸・昆布・かつお節などの旨味食材
「Moins mais mieux(少なくても良いもの)」の価値観にぴったり。少量でも料理全体の味を底上げする、日本ならではの機能性食材。 - 和牛や魚介の高級食材
「Bien manger à domicile(家庭での“良い食”)」の文脈で、特別な週末やホームパーティの食卓を格上げする素材。
つまり…
パリの街を歩くと、エピスリー・フィンの存在感が年々高まっているのを感じます。レストランで一度きりの食事を楽しむのではなく、家庭での時間を豊かにするために選ばれる食材。そして、贈り物として価値を持つ食材。
この拡大する市場の中で、日本の高級食材は“異国の珍品”ではなく、日常を少し特別にするための確かな選択肢として今後ますます日本の農産品の商機が転がっていると確信しています。
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